シンポジウム
平成23年度 HPSシンポジウム開催報告
文部科学省大学教育・学生支援推進事業【テーマA】大学教育推進プログラム
静岡県立大学創立25周年記念 HPSシンポジウム
「病児・障害児への専門的な遊び支援を考えよう!」
-すべての子どものために、すべては子どものために-
目的
静岡県立大学短期大学部では、平成21年度より文部科学省「大学教育推進プログラム」として
「体系的なHPS養成教育プログラムの開発」に取り組んでいる。
事業最終年度である本年度は、養成教育モデル開発、効果的教授法モデル開発、小児医療モデル開発の3つのモデル開発の成果を統合し、
初級から上級に至るHPS養成教育の根幹となるプログラム開発の完成を目標としている。
また、平成19年度から実施しているHPS養成講座は、現在までに73名の修了生を輩出し、
各々が医療施設あるいは研究施設の場においてホスピタル・プレイを展開しながら活躍している。
ついては、これまでの本学事業成果を公表し、今後のホスピタル・プレイ活動の進展に向けて新たな取組を目指す必要がある。
そこで、①日本及び英国における専門的な遊びの技術を広く一般に示し、HPSがチームの一員として小児医療に寄与する方法を明らかにする。
②ホスピタル・プレイ活動において、その中心となる「プレイ・プレパレーション」の概念を新たに定義し、
HPS養成教育プログラムの中核を担うカリキュラムへと反映させる。
以上、二つの目的をもってHPSシンポジウムを開催する。
概要
- 期日
- 平成24年2月11日(土)9時30分~16時30分
- 会場
- 静岡県立大学短期大学部 講堂及び食堂、各教室
- 対象
- 一般市民、HPS、医療・福祉等HPS関係者、及び本学学生・教員
- 参加費
- 無料
- 事務局
- 静岡県立大学短期大学部HPS事務局 >>こちらからポスターをダウンロードできます[PDF:3.5MB]
- 主催
- 静岡県立大学短期大学部
- 後援
- 静岡県、地方独立行政法人静岡県立病院機構、社会福祉法人静岡県社会福祉協議会、社会福祉法人静岡市社会福祉協議会
詳細
◆平成24年2月11日(土)
- 総合司会
- 立 花 明 彦
- (運営実行委員/静岡県立大学短期大学部准教授)
- 9:30-9:40
- 木 苗 直 秀
- 開会挨拶
- (静岡県立大学短期大学部学長)
全国各地より多くの皆様にお越し頂き、誠に有難うございます。本学HPS養成講座は現在第7クールを迎え、2冊のHPS関連書籍や事例集の発行など、着実に実績を積み重ねてきました。本日は、英国HPSのキャロライン先生講演の他、笠間先生の講演やワークショップ、シンポジウムを予定しております。ご来場の皆様が、「すべてのこどものために、すべてはこどものために」を支える各種プログラムを通じ、充実した1日をお過ごし頂けるように願っております。
なお、本学HPSシンポジウムにあたり、ご後援を頂いた静岡県、地方独立行政法人静岡県立病院機構、社会福祉法人静岡県社会福祉協議会、社会福祉法人静岡市社会福祉協議会の各位に対して、心から御礼を申し上げます。
- 9:40-9:45
- 樋 口 聰
- 来賓挨拶
- (文部科学省高等教育局大学振興課大学改革推進室長)
業務都合により当日はお越し頂けなかったが、書面によるご挨拶を賜った。書面の内容は本事業の目的と本学取組に対する評価及び謝辞であり、総合司会の立花准教授によって紹介された。
- 9:45-10:10
- 松 平 千 佳
- 基調報告
- (運営実行委員長/静岡県立大学短期大学部准教授)
まず、本事業に対して御支援と御協力を頂いている各位に対して感謝の辞があった。
本学では平成21年度より文部科学省大学教育・学生支援推進事業【テーマA】大学教育推進プログラムとして「体系的なHPS養成教育プログラムの開発」に取組み、本年度が最終年度に当たる。本事業では英国のカリキュラムを参考として、日本の教育文化・環境に則した教育プログラムの構築、そしてキャリアラダーを念頭に置いた教育体制の構築を目指してきた。現在は、HPS養成教育の対象者と内容、目的を明確化し、教育カリキュラムと教育科目、そして教育結果(アウトカム)を導き出している。これらの結果は、本年度末までに整理し、体系化してまとめる予定である。
最後に、本事業成果の1つとして、現在制作中のHPS紹介映像を上映した。
- 10:10-10:50
- Caroline Fawcett
- 講演Ⅰ
- (Poole General Hospital, Poole Hospital NHS Foundation Trust,
- Dorset/上級HPS, Team Manager)
本講演は、「HPSが実践を通して捉えた遊びの力」をテーマとし、キャロライン氏の英国における経験を踏まえながら、最新の知見を引用して「遊び」の価値と可能性が言及された。特に、子どもには遊ぶ権利があること、そして遊びは子どもにとって衣食住と同様に不可欠なものであることを、個別事例や最新の学術研究を通して解説された。
また、子どもが困難にぶつかった場合の対処方法の学習や、人を信頼し自分に自信を持つ方法、そして自分の感情をコントロールしたり、合意を形成することを可能にするモデルとして、ホスピタルプレイモデルが提唱され、信頼とオープンコミュニケーション、そして遊びの3つの重要性が指摘された。
- 10:50-11:00
-
- 休憩
-
- 11:00-12:00
- 笠 間 浩 幸
- 講演Ⅱ
- (IPA日本支部副代表・ワールド評議員/同志社女子大学教授)
本講演は、「子どもの遊びと大人や社会の役割」をテーマとし、子どもが遊びを通して運動能力や想像力、創造性、社会性、科学的思考といった様々な力を獲得する様子が紹介された。講演の前半では簡単なアトラクションで会場の緊張感をほぐし、遊びの持つ力を実演された。その後、砂場で遊ぶ子どもの様子が上映され、遊びの質、量、環境、その何れもが子どもにとって極めて貧しい状況に陥っていることを指摘された。
最後に、子どもにとって遊びとは何か、大人や社会は子どもの遊びをどのように捉え、何をすべきなのか。これらの問題について、砂場の歴史的な背景と子どもの権利という観点から論考された。
- 12:00-13:45
-
- 昼休み/ランチョン・セッション
-
ランチョン・セッションでは、子どもにやさしい医療の実際について、本学HPS養成講座修了生による実演(ワークショップ)を展開した。各セッションでは、専門的な遊び(Play)の力を体験的に捉えられるように、参加者が実際の玩具や医療器具に触れながら、HPSの解説が進められた。
なお、当日の各セッション及びHPSは、次のとおりであった。
◆セッションA:
子どもにやさしい採血方法 ―抑制しない座位で行う採血― |
小川綾花・松井幸子(名古屋市立大学病院HPS) |
◆セッションB:
効果的なディストラクション・ツールの選び方 |
奥山ふみ (日本医科大学多摩永山病院HPS)/
棚瀬佳見・平野祐子 (あいち小児保健医療総合センターHPS) |
◆セッションC:
治癒的な遊び ―シリンジ・ペインティング他― |
小長谷秀子(静岡県立総合病院HPS)/
望月ます美(静岡済生会総合病院HPS) |
◆セッションD:
プレイ・プレパレーションの実際 |
杉渕早苗(東京都立小児総合医療センターHPS) |
- 13:45―14;00
- 江 原 勝 幸
- ランチョン・セッションまとめ
- (運営実行委員/静岡県立大学短期大学部准教授)
各セッションの実施結果について、会場の写真を交えながら振返りが行われた。発表者の創意工夫によって、それぞれの専門的な遊びが身近に感じられる内容であり、ホスピタル・プレイの実際を効果的に提示することが出来ていた。
また、本学東日本大震災復興支援「スマイル・プロジェクト」の概要が簡単に紹介された。その中で、現地砂遊びの様子が放映され、笠間氏より講評頂いた。
- 14:00―16:15
-
- シンポジウム
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現在、本学GPでは3つのモデル部会を中心に「体系的なHPS養成教育プログラムの開発」を目指しているが、その一つである産学連携による小児医療モデル部会では、6病院を対象に玩具を貸与し、子どもの療養環境整備に寄与する共同研究を実施してきた。
本シンポジウムでは、このうち3病院がパネリストとなり、これまでの研究活動成果が報告された。その後、キャロライン氏による講評及び質疑応答が行われた。質疑応答の際は、あらかじめ参加者に質問記入票を配布し、集約された質問をパネリストが回答する形式とした。
パネリストの発表概要とキャロライン氏の講評は、以下のとおりであった。
- ◆パネリストⅠ:
- 村上勝美・中山陽子・諏訪部和子・
- 「子どもの笑顔とやさしく楽しい療養環境」
- 杉山全美・寺田智子
- 静岡県立こども病院)
-
HPSの活動基盤は、日常の遊びである。遊びを通して、子どもとのコミュニケーションを図り、子どもの思いを汲み取り、信頼関係の構築が出来てこそ、プレパレーションやディストラクションは有効に機能する。本研究ではプレパレーションに視点を置き、ツール及び玩具の効果的な活用方法について検討した。遊びを通して看護師やCLSと多職種チームが形成され、継続的な物理的社会的環境の整備が実現された。
- ◆パネリストⅡ:
- 河本鈴代・市川雅子・西尾恵美・田坂なお子・
- 「障がいのある子どもの遊びの広がり」
- 齊藤智子・藤崎由枝美
- (大阪発達総合療育センター)
-
障がいがあることは、単に生活の不便さだけでなく、子どこにとって大事な様々な体験をする機会を少なくしていることは明らかである。本研究では5つの事例を通して遊びの可能性を追求し、子どもたちの楽しい気持ちを汲み取り、心を開放し安心して遊ぶことができるように、安全な環境を整えた。今後は、HPSが環境と人とを子どもに結びつける役割(コーディネーター)としての位置付けを明確にしたい。
- ◆パネリストⅢ:
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- 「腎臓疾患の子どもが受ける治療に対する
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- プレパレーション・ディストラクションの効果」
- 大矢佳代・小島広江・畑井郁子
- (総合病院聖隷浜松病院)
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子どもの発達年齢に則したプレパレーションや、少しでも気が紛れ、和やかな雰囲気の中で検査が受けられるようなディストラクションの実施を目的として、(1)玩具や教材を活用した検査室、プレイルームの環境整備、(2)各児の発達に見合った遊び計画の立案に取り組んだ。通算14例を対象とした結果、子どもやその両親が検査に対して積極的な協力者として関わることで、子どもの不安や恐怖の軽減に結び付くことが明らかとなった。
- ◆キャロライン氏による講評概要
-
子どもとその家族に対する支援、そして他職種への影響について焦点を当て、HPSによる遊びの視点が深く考察されていた。また、制作したツールや玩具が医療者へも浸透しており、HPSの仕事の範囲が拡大していることは高く評価できる。各取組に対して敬意を表すると同時に、今後はきょうだいや障害のある子どもへの継続的な支援も期待したい。
- 16:15―16:30
- 田 中 丸 治 宣
- 閉会挨拶
- (静岡県立大学短期大学部部長)
HPS事業を社会へ発信する上で、本シンポジウムは非常に有益な機会となりました。本日は、(1)キャロライン氏による日本の評価、(2)笠間氏による砂遊びの面白さとその多様性、(3)子どもとツールとの関係における柔軟性や対応性の不可欠さ、(3)HPSの学問的な発展性が明らかとなり、全体を通して和やかな雰囲気の中で遊びに触れて頂けたと思います。
最後に、本シンポジウムの参加者各位に対して感謝が述べられ、引き続き本学HPS事業に対する支援と協力をお願いして閉会した。